宿泊業の高付加価値経営ガイドラインに基づく登録制度への登録しよう

 2023年1月20日に観光庁が策定した「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」。同時に同ガイドラインに基づく登録制度も実施されており、登録された旅館等はHPにも掲載されています。本記事では、この登録制度がどんなものか、登録するために必要な視点の紹介、そして、登録することのメリット(補助金の活用)についてご紹介いたします。

 ※こちらのガイドラインの登録は、旅館業法第三条第一項の許可(旅館・ホテル営業又は簡易宿所営業、詳細はこちら)を受けた施設が対象です。

宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドラインとは?             

≪持続可能な稼げる産業へ≫

 中小規模の宿泊事業者が宿泊施設の高付加価値化に向けた経営を行い、「経営力」、「収益力」の向上を目指すことを目的として策定されたガイドラインです。

「高付加価値化」というとサービスの向上といったイメージを持たれるかもしれませんが、このガイドラインでは大きく「経営」、「人事・労務環境」、「IT活用状況」について定められています。

 バックヤード業務を減らし、その減らした時間をお客様へのサービスに使う時間へ、労働環境を改善することで従業員のモチベーションアップ、お客様へのサービス向上へ、ITの活用により業務を効率化、などなど。

こういった「経営力」、「収益力」を向上させることは賃金の向上にもつながります。ここで言う「高付加価値」とは、お客様だけではなく経営者や従業員にとっても高付加価値であること。ガイドラインの言葉を引用すると、「持続可能な稼げる産業」への変革を目指すものになります。

≪高付加価値経営旅館と準高付加価値経営旅館≫

 この登録制度は高付加価値経営旅館と準高付加価値経営旅館の2種類が用意されております。登録をしたいがいきなりすべての要件を満たすは難しい。といった場合は、まず準高付加価値経営旅館の登録を行い、のちに高付加価値経営旅館の登録をすることも可能です。

 ガイドラインに定められた「必須事項」に定められた4つの視点の各項目をクリアすることで準高付加価値経営旅館の登録が可能となり、さらに「努力事項」に定められた4つの視点の項目のうち各半数以上クリアすることにより高付加価値経営旅館の登録が可能になります。

 本記事では、準高付加価値経営旅館の登録に必要な「必須事項」のみご紹介させていただきます。

4つの視点 その1 会計の視点                          

1.貸借対照表(B/S:バランスシート)を作成しよう

2.損益計算書(P/L:プロフィット・アンド・ロス・ステイトメント)を作成しよう

 いわゆる「決算書(財務諸表)」になります、家族経営の旅館などではこの辺りも未作成という場合が多いということのようです。上記①②にキャッシュフロー計算書(C/S)を加えたものが「財務三表」と呼ばれ、財務諸表の中でも重要な項目とされています。

 貸借対照表は資産、負債、純資産を把握し、経営の健全性を確認。損益計算書は収益や費用、利益を把握することで収益性を確認することができます。他社との比較もできますので、余計な経費がかかっている部分なども可視化されます。

3.ADRを算出しよう

 ADRとは、Average Daily Rate(アベレージ・デイリー・レート)の略で、客室平均単価のことをいいます。計算式は、

売り上げ合計額÷販売客室数=客室平均単価(円)

 適切な価格設定をするために必要な指標、デイリーなのでその日ごと計算になります。毎日の数値があれば、週ごとや月ごと、季節ごとといった指標を作ることもできます。

同じエリアの宿泊施設と比較し、高すぎてお客様を逃していないか、安すぎて利益を失っていないかなどを見ることができます。

4.RevPARを算出しよう

 RevPAR(レヴパー)とは、Revenue Per Available Room(レベニュー・パー・アベイラブル・ルームズ)の略で、販売可能な客室1室あたりの収益を表す値となります。

計算式は、

客室稼働率(OCC)×客室平均単価(ADR)=RevPAR(円)

 ここで新たに客室稼働率(OCC:Occupancy rate(オキュパンシー・レート))という単語が出てきましたが、これはそのまま、宿泊利用された客室数÷販売可能な客室数で計算することができます。

 経営する宿泊施設の利益を高めるためには、上記ADRとOCCの数値が高くなれば良いわけですが、ADRが高くなる(単価が高くなる)とOCCが下がり、OCCを上げるためにはADRを低く(単価を安く)しなければならないといった関係性になりがちです。

 RevPARの計算結果は、使われなかった客室も含めた宿泊施設全体での価値を算出することができ、この数値を上げることが利益を高めるために必要になります。RevPARをチェックしながら、ADRとOCCの調整をしていくことになります。

 この辺り自分でやるのも結構大変だな、とお思いの方もいらっしゃるかと思います、最近では月額で利用できるレベニューマネジメントシステム(レベニューマネジメント:将来の需要を予測して最適な販売価格を設定し、収益を最大化する手法)や、それと連携したホテルPMS(プロパティ・マネジメント・システム)といった管理システムでといったシステムを活用して利益の最大化と業務の効率化を目指すこともできます。

4つの視点 その2 持続可能性の視点                     

1.観光施設における心のバリアフリー認定制度を取得しよう

 バリアフリー対応や情報発信に積極的に取り組む姿勢のある観光施設を対象とした認定制度で、認定されると認定マークが交付されます。

認定されるためには、具体的に以下の3つの基準を満たす必要があります。

認定基準① バリアフリー性能を補完するための措置

備品の備付け、貸出等により施設内の段差解消やコミュニケーションの円滑化を図る取組等施設のバリアフリー性能を補完するための措置を3つ以上行い、高齢者、障がい者等が施設を安全かつ円滑に利用できるような工夫を行っていること。

たとえば、

聴覚障がい者向けにテレビの字幕を表示できるリモコンを用意する、室内信号装置の備付、発達障がい者向けのパーテーションの貸出、筆談器具、コミュニケーションボードを用いた施設案内、電動車椅子、手押し用車椅子などの用意、など。

認定基準② バリアフリーに関する教育訓練の実施

施設の従業員に対し、高齢者、障がい者等へのコミュニケーションやサポートの仕方に関する研修を実施すること等、バリアフリーに関する教育訓練を年に1回以上行っていること。

たとえば、

障害を持った顧客へのコミュニケーションやサポートに関する外部研修への参加、観光庁の作成したマニュアルを活用した社内勉強会、バリアフリーに関する資格を有する従業員の雇用、など。

観光庁HPでは研修用動画も用意しており、こちらを視聴することで認定基準をクリアすることができます。

観光庁:観光施設における心のバリアフリー認定制度HP

https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kokorono_barrier-free/index.html

認定基準③ 施設のバリアフリー情報の積極的な発信

自らのウェブサイト以外のウェブサイトで、施設のバリアに関する情報などのバリアフリー情報を、積極的に発信していること。

たとえば、

宿泊予約サイトや観光案内サイトでの表示、市町村ウェブサイト等にバリアフリー情報の掲載、バリアフリー情報を特集するウェブサイトで施設の取り組みを発信、など。

4つの視点 その3 労働環境改善の視点                     

1.就業規則を作成しよう

 就業規則とは、勤務時間や賃金等、職場で働くルールを定めたものです。働くルールを明確にすることで、従業員が安心して働くことができるようになります。これは自身で作成すれば良いだけではなく、作成した就業規則は従業員への周知が必要で、労働者が常時10人以上いる事業所では労働基準監督署への届出も必要になります。

2.36協定(労使協定)を締結しよう

 36協定とは、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間以内)を超えて従業員に残業(時間外労働)および休日労働をさせることができる協定を労使間で締結するものになります。協定の締結後は、所轄の労働基準監督署長への届出を行い、従業員に周知する必要もあります。なお、残業及び休日労働を従業員にしてもらうためには、割増賃金等の取扱いについて雇用契約書(書面等)または就業規則に明示する必要があります。36協定届の届け出がない残業は法違反となってしまいますのでご注意ください。

 また、宿泊施設ならではの変形労働時間制の明文化、導入や、努力事項になりますが有給休暇の計画的付与制度、法定外休暇や能力評価制度の導入など労働環境改善にあたって様々な制度があります。

 これらの作成も自分でする必要はなく、就業規則や36協定作成の専門家である社会保険労務士に依頼することができます。我々のグループにも社会保険労務士法人がありますので、依頼先が見つからない場合は是非ご相談ください。

北海道SATO社会保険労務士法人

https://hssr.sato-group.com/lp/

※↑ページは北海道ですが、日本全国にグループの拠点がありますので全国どこでも対応可能です、地域を問わずご連絡ください!

4つの視点 その4 IT導入の視点                      

1.電子メールを使おう

 いまだに取引先との連絡にFAXを使っている宿泊施設が多いということなのでしょう、これについて説明はほとんど必要無いかと思いますが、FAXから電子メールに変更することにより、ペーパレス化や外出先での確認による効率化が図れます。

2.情報発信手段を電子化しよう

 自社サイトの作成やソーシャルメディア(SNS)などのデジタル媒体を使い、顧客に向けて情報を発信していこうというものになります。最新の情報を簡単に更新することができ、ユーザーの行動分析にも活用することができます。

 その他にも努力次項では会計の視点でもご紹介したレベニューマネジメントシステムやPMSの導入、自社サイトから直接予約を受け付けるシステム、キャッシュレス決済の導入など様々なシステムの導入が挙げられています。

登録のメリット(補助金活用)                       

 令和6年に実施された観光庁の補助金については、そのほとんどが高付加価値経営旅館等登録をすることが申請の要件になっています(準の登録でもOKです)。厳密には、登録の申請をしている段階での補助金の申請が可能ですので、場合によってはまだ間に合う?または今後実施予定の補助金もありますので、その制度についていくつか概要をご紹介します。

1.令和6年度「宿泊施設インバウンド対応支援事業」

 令和6年7月31日(水)~ 令和6年8月30日(金)17:00

(1)宿泊施設基本的ストレスフリー環境整備事業

 (補助対象事業:混雑状況の見える化、バリアフリートイレの整備)

(2)宿泊施設バリアフリー化促進事業

 (補助対象事業:客室における改修等、共用部における改修等、災害対応に資する設備の導入)

2.令和6年度「宿泊施設サステナビリティ強化支援事業」(2次公募)

 令和6年8月1日(木)10:00 ~ 令和6年8月30日(金)17:00

3.「観光地・観光産業における人材不足対策事業」(3次公募)

 令和6年9月2日(月) ~ 令和6年9月30日(月) 17:00

各補助金の内容についてはSATO行政書士法人のHPでご紹介していますのでご覧ください!

≪記事ページのURL≫

期限の迫っているものもありますが、また次回公募も実施されるかもしれません。どちらにせよ、高付加価値経営旅館等登録をすることにより補助金の活用がしやすくなることは間違いないかと思います。

また、宿泊施設で導入するシステム関連はIT導入補助金の活用ができる場合もあります。

IT導入補助金についてはSATO行政書士法人のHPでも紹介していますので、よろしければこちらもご覧ください。

 その他にも、各自治体でも宿泊施設向けの補助金は実施されており、特に東京都内は数多く実施されています。地域を問わず幅広く対応していますので、気になる制度があればぜひご相談ください。

補助金についてのご相談はこちらから↓

 高付加価値経営旅館等登録の申請もサポートしていますので、気になる方は本HPのお問い合わせよりご連絡ください。

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