簡易宿所とは?
旅館業は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されています。上記の「営業」とは、施設の提供が「社会性をもって継続反復されているもの」に該当するかどうかで判断されます。
例えば、「友人や知人を自宅に数日泊める等の行為」は社会性のない行為、と判断されるため営業には該当しません。また、宿泊とは、「寝具を使用して施設を利用すること」とされております。
旅館業法上は、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つに大別されますが、ここでは、簡易宿所営業について解説していきます。
『簡易宿所』というとあまり耳慣れない言葉だと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
旅館業法上では、「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの。」と定義されますが、少々わかりにくいかと思います。
言い換えますと「1つの客室を多数の者で使用する形態のことで、お風呂やトイレ、洗面所などの設備については共用の施設」になります。なんとなくわかったようなわからないような…そんな印象ですよね。
具体例で言いますと「ゲストハウス」「ユースホステル」「カプセルホテル」「山小屋」といった施設が簡易宿所営業に分類されることが多くなっています。(もちろん例外はあります)
こちらの具体例を見ていくとイメージしやすいでしょうか。一般的なホテル・旅館とは形態が違うけれども、確かに宿泊を提供する施設だな、というのがお分かりになるでしょう。そして、このような施設で営業開始をするにあたっては、「簡易宿所営業許可」の取得が必要になってくるのです。
簡易宿所営業のメリットと設備要件
宿泊客にとっては「一人当たりの料金が比較的安く設定されていることが多い」という点が、事業者にとっては「限られたスペースに多くの宿泊客を収容できる」という点が運営上の大きなメリットといえます。
典型例というと語弊があるかもしれませんが、ゲストハウスを例にとって考えてみましょう。ゲストハウスと言えば、一般的なホテル・旅館よりも比較的安価に宿泊料が設定されていて、大人数が泊まることが出来る施設、というイメージですよね。
ただ、簡易宿所営業はゲストハウス以外にもいろいろな業態があります。ゲストハウスとは対局にあるような施設で簡易宿所営業をしているような事例ももちろんあって、貸別荘や一棟貸しなどで1泊の料金を高額に設定されている簡易宿所もあります。
このような場合でも、定員上限の人数で団体泊をすれば、一人当たりの料金はお安くなり、幾分かでもお得感が出るような形にはなりますね。
また、設備的には、以下の要件が求められています。
- 客室の延べ床面積が33平米以上あること
※宿泊できる人数が10人未満に設定されている場合は、3.3㎡×宿泊者数で算出される面積以上があることが要件となります。 - 2段ベッドなどを設置する場合、上段と下段におおむね1m以上の間隔があること
※ただし、2段ベッドを設置する場合、上段と下段の面積を別々に計算して延べ床面積を算出することは出来ない、とする保健所等もあるようです。該当の場合は、事前確認をおすすめいたします - 適当な換気や、採光、照明、防湿および排水の設備があること
※こちらについては、申請時に平面図、立面図等を提出し、申請後の現地調査で保健所等の担当官の方が確認する形になります。 - 宿泊者の需要を満たせる規模の入浴設備があること
※近隣に銭湯などがあり、入浴に支障がないと認められる場合は除きます。 - 玄関帳場(フロント)またはこれに類する設備(チェックインをするためのシステムを備えた設備等)を設けること
こちらは国の法令上の基準はありませんが、条例で設置を基準化している都道府県がありますのでご注意ください。 - 適当数のトイレがあること
※宿泊室ごとにトイレが設置されている場合は不要ですが、複数の利用者の方々が共同で使うトイレが必要になる場合は、男子用・女子用の別に分けて適当数を設置することが求められます(こちらも条例によって設置基準が細かく分かれている場合があります。申請物件の所在地を管轄する都道府県・保健所等にご確認いただくのがよいでしょう) - 都道府県(保健所を設置する市または特別区にあっては、市または特別区)が条例で定める構造設備の基準に適合すること
以上が一般的に簡易宿所営業許可申請で求められる設備的な要件となります。ただし、地域によっては条例等で別途制約を課している場合もありますので注意が必要です。
申請物件を新築・改修して申請する形をお考えの場合などは、計画段階で、完成予定図面を持参するなどして、管轄の都道府県庁や保健所等の窓口に事前にご相談されることをおすすめいたします。
例えば、直近まで簡易宿所営業を行っていた居抜き物件であったとしても、許可要件・法令の変更や周囲の施設の変化などで許可が受けられない可能性はあり得ます。新築にしても改修されるにしても、工事をするにあたっては先行投資をする形になりますので、より確実に営業を開始するために着工前の段階で事前相談・事前確認を行うのがよいでしょう。
また、上記の設備要件の他にも地域的な要素でそもそも簡易宿所営業を含む旅館業の営業が出来ない地域もありますので注意が必要です。これについて少し解説しましょう。
皆様がお住まいの土地や多種多様な営業を行っている土地には「用途地域」という「都市計画法」に基づいた利用制限が定められています。この用途地域の分類で「〇〇住居専用地域」に分類される地域については、旅館業の営業ができません。それに加えて、「工業地域」「工業専用地域」についても同様に旅館業の営業ができないエリアとされています。
これらの用途地域を記録した都市計画図については、大半の各市町村役場の担当部門の窓口で閲覧可能になっているようです。また、ホームページで公開している市町村もありますので、ご関心をお持ちの方、検討中の物件を所有されている方がいらっしゃれば、お調べしてみてはいかがでしょうか。
その他、地域を管轄する建築指導課が発行する『建築基準法第7条第5項に規定する「検査済証」』の写しや、地域を管轄する消防署が発行する『消防法令適合通知書』の写し、申請物件の周囲100メートル以内の見取図などといった書類も申請時の添付を求められる書類になっていることがほとんどです。
また、民泊(住宅宿泊事業)との関連という視点で見ていきましょう。ご存知の通り、民泊は営業日数制限が年間180日以内に設定されていますよね。ただ、申請者様の中には、予め簡易宿所営業基準を満たした形で施設を整備しておいて、営業形態としては民泊物件としてスタートして、その後の利用状況に応じて簡易宿所営業に切り替えるべく簡易宿所営業許可を新たに申請し、簡易宿所としての営業を開始する、といったケースもあるようです。
当法人にもたくさんのお客様からのご相談が寄せられるのですが、物件の有効活用、という点ではいろいろな側面から検討してみるのも良いかもしれませんね。ご関心をお持ちの方、対象となり得る物件を所有されている方は、是非お気軽にご相談ください。